鴻池組 小山 / 笠原 栗山組 蓮佛

プロフェッショナルに聞く、
トンネル工事の魅力とは?

貫通式レポートに続く、もっと掘り下げたトンネル工事のお話。

FEATURE わかさ氷ノ山トンネルレポート

一直線に無事故で貫通させる。
トンネル工事は一致団結の力があります。

2018.6月に公開した特集「わかさ氷ノ山トンネル貫通式」でもレポートした、つく米バイパスのわかさ氷ノ山トンネル。貫通式の模様を中心にお伝えした前回の記事では伝えきらなかった、トンネル工事の概要や魅力を、トンネル工事のプロフェッショナルを迎え、お話をお聞きました。

今回のトンネル工事概要を教えてください。

笠原:一般国道482号は「京都府宮津市〜鳥取県米子市」間の幹線道路です。今回のつく米バイパスは、つく米地区と茗荷谷地区を結ぶバイパス道路で、5年前の茗荷谷・渕見バイパスに引き続き、交流促進の為の道路整備事業です。国道29号から氷ノ山スキー場等への観光道路、つく米地区への唯一の生活道路として重要な路線であり、交通の円滑化・生活道路の確保を行うことにより、観光支援と地域住民の生活の安定を図るものです。

小山:今通っている現道は、狭く急峻で地滑りを起こす所があり、特に冬になると雪が降り非常に通行が困難となります。元々の現道と比べて距離的には長くなっていますが、今回のトンネル工事で、その様な問題は解消され、観光・地域生活道路として便利になるための工事です。今後も、482号の県境に2000mのトンネルを掘る計画がされているようです。

笠原:これが繋がると、湯村の方へも直通となります。

蓮佛:9号線を回って豊岡方面へ行くのと、こっちの道を真っ直ぐ行くのとでは利便性が全然違いますね。

小山:地図で見ても、ものすごく近くなるよ。

トンネル工事のプロフェッショナルとして、トンネル工事の魅力を教えてください。

小山:トンネル工事は※明かり工事とは異なる想定外の事が起きやすく、状況に応じた対策や判断が求められる工事です。危険なことも多々あります。あらゆる事を想定し、事前準備を行い、その時その時の判断と決断が必要になってくる難しい工事ではありますが、その分やりがいを感じます。
トンネル工事は、想定外の事が起こるので先が見えません。山が動いたこともある。異常出水したこともある。とにかく先が見えないのが怖いですね。判断を誤れば大事故に繋がってしまいます。そうならないように、毎日必ずトンネルの中を端から端まで歩いて工事状況を目視、職員に日々の様子などを聞いてトンネルの状況を把握します。日々の積み重ねをもとに、問題を事前に察知する能力も重要です。今まで積み上げてきた経験からくる判断もある事から、明かり工事の経験だけではトンネル工事は出来ないでしょうね。
トンネルは様々なデータを用いた「臨床工学」と言われ、様々な研究結果や本などが出版されていますが、私が考えるトンネル工事は「経験」が一番で、「臨床工学」ではなく「経験工学」だと思っています。近頃はこういう考え方は否定されるのでしょうが(笑)
現代はデータから基づいた答えが...とかそういう時代なんで、それも大事ですけど、やはり現場で経験を積まないとトンネルについては語れないですね。すいません、古いトンネル屋なもんで(笑)

※明かり工事…トンネルの坑内に対して、坑外の部分

笠原:色々な工種をやってきましたが、トンネル工事は、何より目標がはっきりしています。皆でトンネル貫通に向かって、一直線に無事故で貫通させるとういうのがはっきりしています。他とは違って、一致団結の力があります。貫通に向けての意識で一体感があります。
トンネル工事は、切削を止めないんです。私はそう叩き込まれてきました。これを止めると、坑夫さんの費用もかかるし、あらゆる所にロスが発生し支障をきたしてしまいします。どんな事があっても、たとえ夜中であっても機械を直して止めないというのがトンネル工事です。
トンネル工事は地図に載る仕事。もともと土木を仕事に選んだ理由でもあります。トンネル工事ははっきりと残ります。下水工事はマンホール一つしか残らなかった...みたいなことありますが(笑)下水工事も重要な工事ですし、物の例えの話しですよ(笑)
名前も残り、あそこのトンネルは自分で掘ったと言えるとこにやりがいがありますね。

蓮佛:トンネル工事は、先が全然全く分からない、その先がどうなっているか分からない世界でした。貫通させるという皆の一致した意識、皆が一つのことに向かっていくという連帯感、他の工事とは違う一体感があります。通常の土木工事とはまた違う独特のものがありますね。

今回、栗山組として初めて貫通式に参加させて頂き、神聖な雰囲気に圧倒されました。

小山:トンネルの坑口は山の神を祭ります。山の神をしずめるために、化粧木を供えて安全祈願をしてそれから掘削に入ります。そして、皆が苦労してトンネルが抜けたら、ご苦労様で貫通式を行います。現在はセレモニーっぽくなっていますが、昔は坑夫の慰労のためのもので、主役はトンネルを掘った人=坑夫ということで貫通式を行っていました。山の神は奥様(女性)とされており、別の女性を坑内に入れると山の神が焼きもちを焼いて怒ると言い伝えられていました。今はそういう時代ではないのですが。

笠原:大昔では、女性がトンネルの中に入ってしまうと「わしはもうこのトンネルには入らん」という坑夫が言い出して、所長がそれをなだめていたという様子もあったみたいですね(笑)

小山:貫通石にも様々な言い伝えがありまして、安産のお守りであったり、願い事が叶うとも言われています。受験を控えた子供に貫通石を持たせると言って、貫通石を拾って帰った人もいました。

笠原:貫通石は、だいたい安産と合格祈願といいますね。

関わる人間がよく考え、正しい判断をし、
準備と対策を行えた事で成果を出せた。

トンネルが貫通したときはどんな気持ちでしたか?

小山:本当にホッとしました。貫通までの間、大量の火薬を扱って発破する日々です。夜中の2時、3時に発破がドン!ドン!ドン!と鳴り、それが無事終わってから寝る生活が続きました。長い期間、火薬を扱っているというのは緊張しっ放しの極限状態ですよ。トンネル工事は火薬で掘り進めるのが一番早いですが、想定外が起こりやすいのも火薬です。一つ間違えば何人もの命に関わります。もし盗難や紛失などが起こってしまったら、見つけるまで永久に探し続けなければならないのです。「貫通=もう発破を使わなくてよい」というのは、ものすごく安心しますね。今は本当に皆よくやってくれたな、という感謝の気持ちでいっぱいです。

笠原:他社の過去の事例で、水害によって火薬庫が流されるという事故が起こってしまいました。その火薬庫は現在でも探索中のようです。

小山:そのケースでいうと、天災だから仕方ないと思う部分もあります。ですが国は許してくれません。「火薬は必ず探し出しなさい」と指令が下ります。それ位、火薬とは取扱いには厳しいものです。誰かの手に渡ってしまって悪用されることも考えられます。不始末があれば逮捕もあります。その会社の社長にまで及ぶ話しです。我々は、それを毎日扱っている訳です。それから解放されるというのは本当にホッとします。

笠原:火薬は、坑口から400~500m飛び石することも考えられます。万全を期していても、第三者に被害が及んだりすることも考えられるので神経を使いましたね。

この工事を終え、ふりかえってみて率直な感想をお聞かせください。

笠原:今回のトンネル工事の特徴として、立地が急勾配で道は急カーブ、また豪雪地帯ということで、経験してきたトンネルの中でも、大変厳しい状況での施工でした。

小山:施工の初期段階(11月頃)に乗り込んだ時、いきなりドカーンと豪雪がありました。これからもその規模の豪雪があったら話しにならんな、ということで豪雪対策を考えに考え、対策を行いました。電気を使わず、自然流下で川から水を引っぱって、それを道路へ流させてもらうように県の維持課にお願いして...昼夜と作業していますので、道を確保するのには苦労しましたね。

笠原:豪雪の対策を正しく行わないとトンネル工事が止まってしまう焦りがありました。皆で知恵を出し合って対策を考えて、投入口を設置したのもそうですし。実際、対策が実り、雪が降った時にもトンネル工事が止まることはありませんでした。工事の初期段階で豪雪を経験できたのは幸いだったかと思います。

小山:他に、通常のトンネル工事と異なる点で、掘削した残土の処分を生コン車で行う際、一般道を使わず、全て仮設ヤードで行うことが多いのですが、今回の工事は、残土も吹付けコンクリートも一般道と関わるため、交通災害をとても気にしていました。無事に終えることが出来てよかったです。発注者とは見解の相違があったりしたことで、設計とは違う検討をしたりと苦労しましたが、現場で施工の対策を考え効率よく出来たことで、工期内完成に間に合わせることが出来ました。今回の工事は、関わる人間がよく考え、正しい判断をし、準備と対策を行えた事で成果を出せたと思えます。

蓮佛:そうですね。工事を進めるために皆が色々考えて施工をしました。設計通りにしていては思うように進まなかった部分もあったと思います。この豪雪地帯での対策も進捗には大きく影響しました。皆の力で貫通出来た時は、本当に嬉しかったです。他の工事とは違う感動というか喜びがありました。

笠原:着手の遅れ、豪雪対策をはじめ、色々な困難があったトンネル工事でしたが、現場の職員が一丸となって、難工事を工期内に完成という形で乗り切ることが出来たのは誇りです。特徴のあるトンネル工事で、ここでの苦労も今後のよい経験として活かせるように、「鳥取県:氷ノ山トンネル」しっかりと胸に刻みたいと思います。

工事概要
工事名 国道482号(つく米バイパス) わかさ氷ノ山トンネル工事 (交付金改良)
発注者 鳥取県
所在地 八頭郡若桜町茗荷谷~八頭郡若桜町舂米
工事概要 工事延長L=1,244m(内 トンネル延長L=1,244m)、内空断面積A=50.2㎡、幅員W=8.27m、トンネル掘削工V=74,188㎥、覆工コンクリート工V=7,071㎥、インバート工L=331m、トンネル防水工A=23,714㎡、コンクリート舗装工1式、坑門工2箇所
竣工年度 平成31年3月
施工者 鴻池・青木あすなろ・栗山JV
工事担当者 笠原 光生(鴻池) / 小山 起男(鴻池) / 三原 / 功(鴻池)/ 小野 竜弥(鴻池)/ 石村 勝司(青木あすなろ建設)/ 山崎 大侍(青木あすなろ建設)/ 蓮佛 弘司(栗山)
請負金額 2,708,640,000円
工事説明 地域住民の生活道路としての利便性、わかさ氷ノ山スキー場等へのアクセス向上、観光客や住民の往来の幅が広がることを目的として、若桜町茗荷谷~舂米間を結ぶ山岳に建設する舂米バイパス事業のメインとなるトンネル工事です。